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僕だって他力本願に生きたい

大学生ゲイの諸行無常な日々

意識はいつ生まれるのか

今回紹介する本.領域としては脳神経科学にあたる.

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論

 

 

この本の主題は,書名の通りであり,現代医学で未だに解明されていない謎の一つである意識の所在とその発生のメカニズムについて,最新の知見を織り交ぜ解説する.この分野の有名所(たとえば,脳死や閉じ込め症候群,麻酔,レム睡眠など)は大方触れられているが,中心に据えられているのは「統合情報理論」という考え方である.

意識がある,と判断する境界はどこか.意識を生み出しうる,と期待できる条件は何か.これらの難題について,「どれくらい情報が統合されているか」という視点を導入し,それによりどのように突破口が生まれうるかを,多様かつ印象的なエピソードを用い,平明かつ興味深く解説している.

本の構成がよく練られていることも特筆すべきである.計算された章立て,一貫した論理展開,過不足のない具体例と専門用語の並びにより,特別な素養がなくとも十分に楽しめるように配慮されている.強いて苦言を呈するなら,かなり多岐にわたる項目を扱っているので,重要事実のサマリーがあればなおよい.

 

この本には実に様々なことが収録されている.個々の情報はいずれも興味深いが,それらを学ぶことが重要であるとは思われない.この本の新しさ(メッセージ)は「情報を統合できるかどうかが意識の本質ではないか」という理論を提示すること,ただそれだけのように思われる.

そして,そのたった一つの理論について,ありとあらゆる具体例を上げ徹底的に説明し,ありとあらゆる角度からこれでもかと言うほどに従来の情報と比較・統合し,読者の中にある旧来の認識を隅から隅まで塗り替えていく.このような洗練された情報の解説・提示の仕方がなされていることに,個人的には最も感心した.

 

翻って,ちまたに溢れる医学書は無味乾燥に過ぎる.論文の題目が淡々と,頁を埋め尽くすように並んでいるのと大差ない.英語学習で言えば単語帳である.一方,入門書は図表があり内容も薄いが,説明も同様に浅く,結局分かりやすくも楽しくもない.りんごのイラストに「apple」と添えられていても苦笑である.

「意識」という意味の単語 consciousness は,「気付いている」を意味する conscious の名詞形である.sci- は元を辿ればラテン語で「知る」という意味であり,science や school でも名残を見ることができる.――こういうことを書き連ねた教科書が主流でもいいのではないか,という話である.

医学の世界であれば分野別に本書の類書を見つけて読めばいいのだろう.掘下げる余地がある,掘下げて面白くなる,というのが学問の面白さであるが,ただ詳しく羅列するのでは魅力は伝えられない.情報は,既知のものと統合してこそ価値を持つ.そういうことを鮮やかに見せてくれた一冊である.■